君たちはどう生きるか

館長(コラム・講演・対談) 2016年6月14日
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私が好きな本の一つに、「君たちはどう生きるか(吉野源三郎・著/岩波文庫)」という本があります。主人公のコペル君(愛称)が、友人たちとの人間関係等を通して、様々な出来事を経験し、成長する姿が描かれています。その成長に欠かせないのが、コペル君の叔父さんの存在。叔父さんはコペル君との直接の対話を通し、生きるとは何か、人間とは何か、ということを優しく説いていきますが、「叔父さんノート」と呼ばれるノートにも、自分の考えや、コペル君に伝えたいことを書き溜めています。「叔父さんノート」は所謂、人生の指南書なのです。

 

 

先週末、母方の祖父母の法事のため、帰省しました。その際、小学校4年生にはる姪っ子が「面白いもの見つけた」と言って持って来てくれたのが、古ぼけた一冊のノート。そこには「交換日記」と書かれています。私自身もすっかり忘れていましたが、小学校2年生の時に、私と父は交換日記をしていたのです。姪っ子がたまたま見つけたそのノートは、父から私に宛てた日記でした。

 

懐かしく読み返すと、そこには、

 

・人間は決して自分一人では生きていけないんだよ。人間同士が助け合って生きているんだ。

 

・今日のセーラさん(※注:同時放映されていた「小公女セーラ」)はどうでしたか?人間がまんしていればかならずいいことがあります。それを今日のセーラさんは教えてくれているのでしょう。

 

・(集団登校で)遅い人もいるようだが、その人もなにかわけがあるのかもしれない。だからその人をせめるのはやめようよ!「自分にきびしく、人にはやさしく」ということばもあるよ!

 

・人間という動物は、悪いことをするときは、人の見ていないところや、親のみていないところでするものだよ。そんなことが、悪いとわかっていながらやるからなおこまる。でもそんな悪いことはまねしてはいけないことだ。

 

・「ダックスフンド先生」(※注:「君はダックスフンド先生がきらいか(灰谷健次郎・著)」)の本はおもしろかったね。ダックス先生は、本当に心のやさしい先生だよね。勉強のできない人や親のお手伝いをしている弱い人を守ってあげようとしてるわけだよね。こういう先生がたくさんいるといじめなんてけっしておこらないと思うよ!

 

などなどなどなど。
「叔父さんノート」を彷彿とさせる様な、父の言葉で埋め尽くされていました。

 

読み返しながら気がつきましたが、この日記をつけていた当時の父の年齢は38歳。今の私と同じ年齢です。また、当時、父は国鉄に勤めており、ちょうど国鉄が民営化される前年の日記で、この年は、父にとって、また世の中的にも激動の時代だったのではないでしょうか。日記にもよく出てきますが、国鉄民営化に反対する一部の過激な人達、団体の活動が活発になった時期で、国鉄ゲリラ事件も起こりました。この頃、私たち家族は千葉県習志野市の官舎に住んでおり、登下校中にデモ隊警備の機動隊員をよく見かけました。そんな激動の渦中にいた父は、民営化後のJRには残らないことを決意します。高校卒業後20年間勤めた国鉄を退職した、昭和61年3月31日の日記には、「国鉄という名前が残っているうちにやめれて幸せだと思っています」と綴られていました。父の国鉄マンとしての意地を垣間見た様な気がします。

 

 

日記を通して父は、幼い私に「真夕子はどう生きるのか」…そんなことを問いかけてくれたんだと思います。

 

「君たちはどう生きるのか」。

父やコペル君の叔父さんの様に、次世代に問い、導く事ができる大人でありたいと感じた交換日記でした。

 

 

 

 

 

館長・坂東真夕子

 

 

 

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