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シリーズ最終回の今回は、柔道の稽古が子どもたちの「豊かな心」を育み、そして「頭がよくなる」ということについてです。
こちらは2つの参考文献を用いてお話しさせていただきます。
相手の息づかいを感じることができるほど至近距離で組合うことも柔道の特性の一つだと思います。特に寝技においては、相手とほぼ密着状態です。他の武道、スポーツと比較してもスキンシップが多いと言えます。ここではその“スキンシップ”について注目したいと思います。
「思いやりのある子に育って欲しい」―多くの親が子どもの「心」の成長を願っている。しかし「心」は大事だと思っても、じっさいに「心」を育てるには何をどうしたらよいのか、わかりにくい。身体心理学者である著者は、「心」を育てるには、まず、目の前にある子どもの「肌」に触れ、「身体」の感覚を養うことが大切だと説く。なぜなら、「肌」は「心」をつかさどる「脳」に、もっとも近いからである。
※山口創・著『こどもの「脳」は肌にある(光文社新書)』より抜粋
山口氏は上記著作の中で、「肌は露出した脳であり、体の末端部への刺激こそが、心の形成に大きな力を秘めている」と言います。
1971年アメリカの心理学者・プレスコットは多くの非行少年たちへの調査から、「身体への接触や触れ合いの不足は、抑うつや自閉的な行動、多動、暴力、攻撃、性的逸脱などの感情の障害の原因となる。つまり、幼少期に感覚への刺激が不足していると、成人後も感覚への刺激に依存するようになるのだ」と述べています。
また、山口氏は、自身の実験や調査、過去の研究者の実験結果として、以下の様なことを同著作の中で述べています。
・赤ん坊のタッチケアは、社会性を高め、認知・適応能力がアップする。
・幼少期のスキンシップ不足が「キレる脳」を作りやすくする。
・ADHDによる問題行動はスキンシップ多い行動を取り入れることで改善される。
豊かな「心」を育てるには、“肌”“体”どうしの直接的な触れ合いが非常に重要です。
そして山口氏は、人間の発達順序とは、「体」→「心」→「頭」だと述べています。まずは体の持つ感じる力(身体感覚・皮膚感覚)を育むことが、豊かで思いやりのある心を育てるためには不可欠であり、心身が整ってこそ、知能や頭脳が発達するのです。そして、土台である身体感覚や皮膚感覚を育む原点こそが、肌への接触、つまりスキンシップなのです。
そのスキンシップの密度が濃いのが柔道の稽古です。
相手に投げられた時、受身を取っても、畳を叩く手、お尻、背中…痛いです。
相手に抑え込まれた時、重いし苦しいです。
子どもたちは自分が痛みを知る事で、人はどうされたら痛いのかとか、苦しいのか、という加減を学習していくのだと思います。子どもたちはそういった経験を積み重ね、思いやりのある豊かな心を育んでいくのではないでしょうか。
実際に、脳科学の視点から、武道が「惻隠の情(そくいんのじょう…困っている人を見たら気の毒だと思う心)」を育むという文献もあります。
〈参考文献:月刊武道2013年9・10月号〈武道で脳を活性化しよう(上)(下)〉
日本の武道とは元来、勝ち負けで優劣を判断せず、丹田呼吸法や四股踏みに代表されるような無心のリズム運動(鍛錬)によって己を磨き、金銭に換算されない、という特性があります。稽古の中で単純なリズム運動を無心で繰り返すことで、前頭前野の共感・直感脳を刺激し、他者に対する敬愛や礼節、惻隠の情が育まれると言われています。
※ご参考までに、スポーツはドーパミン神経を活性化させ、意欲が高まり、勝敗・報酬にモチベーションを担保する、という特性があると言われています。
志道館では、子どもたちに柔道や勉学を通し心身を鍛え、世の役に立つ人になって欲しいと考えています。柔道の技術だけが上手になっても全く意味はありません。これからも日々の稽古を通し、「柔道精神」について、「人の生きる道」について、子どもたちに伝えていきたいと思います。
3回に渡り、「子どもの発育発達と柔道・志道館」についてお話しさせていただきました。
私にとって、柔道を客観的に語るのはとても困難なことです。なぜなら、あまりにも身近にありすぎるからです。なので、私が体感的に直感的に感じている柔道の素晴らしさを客観的にお伝えするために敢えて参考文献を使用しました。とは言え、まだまだ伝え切れていない部分もたくさんありますので、随時コラム記事をアップしていきたいと思います。
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館長 坂東真夕子
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